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【実況・小野塚康之 時代を超える名調子】金属バット時代で初! 工藤公康のノーヒットノーラン 「カーブが笑った!バットが泣いた!」 (1/3ページ)

 バックネット裏の階段をくだりながらグラウンドが間近になって、ふと視線を向けるとワインドアップした左投手の腕がビュンと振れた。

 指先を離れたボールはクルクルクルクル高速回転して浮き上がり、高さ2メートルほどの頂点から一気に舞い落ちる。

 両こぶしに握り込んだバットに力を込め待ち構える打者は、急降下するボールをつかまえようとムキになって打ちに行く。だが「ブルン」と空を切る。顎が上がってヘルメットが浮く。絵にかいたようなヘッドアップだった。

 バランスを崩しながら踏ん張ったスパイクの足元で砂塵(さじん)が舞う。上向きのミットに白球が収まりそれを確認したアンパイアの右手が三振をコールした。

 「カーブが笑った! バットが泣いた!」

 そんなコメントが耳の奥で木霊(こだま)した。青空にモクモクと沸く入道雲を背景にマウンド上でベビーフェースにえくぼが輝いた。昭和56(1981)年8月13日、甲子園球場、名古屋電気(愛知・愛工大名電)の小柄なサウスポー工藤公康(現ソフトバンク監督)が投じた1球だった。

 「なんと美しい軌道だろう。カーブだ! ドロップに近い縦割れだ! “meiden”そうか工藤だ! これが評判の決め球だ!」

 NHK入社2年目で初の甲子園出張。命じられたこの試合とは別の仕事に向かう途中、たまたま見かけたこの1球に心を鷲掴(わしづか)みにされた。“未知のカーブが織りなす世界”だった。

 その軌道は急斜面を上って下るジェットコースターをイメージさせた。ダイナミックであり、爽快でスリルすら感じる。

 「見たい! もう1球、もう1球見せてくれ!」と“私の野球好奇心”が催促する。リクエストに応えてくれるかのように「ストン空振り! ストン空振り! ストン空振り!」の連続だ。

 工藤が左手に握って腕を振るとボールに意思が伝わり、まるで生き物のように元気に空中に飛び出しバットを避けてキャッチャーミットに着地する。

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