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【実況・小野塚康之 時代を超える名調子】“彼”は高校生にして勝負師の顔をしていた 再び戦う鳥谷敬を私は見たい (1/3ページ)

 今頃いったい“彼”は何をしているのだろう? マシン相手に打ち込み、ジムで肉体を鍛え上げているのか? それとも普段着で街に出ているのだろうか? それなら、どんな表情をして? ヘアスタイルは? ファッションは? サングラスは掛けているのか? …ふと“彼”のことを思い浮かべるとそんなことまで想像したくなる。

 “彼”=鳥谷敬(38)は2019年、阪神を去って行った。“生え抜きのエリート”“2000安打の名球会メンバー”“連続試合やフルイニング出場の記録に挑んだ鉄人”など多く肩書が付く男。人気球団のスター選手の区切りにしては、あまりにもクールにフェードアウトしたイメージで、逆にインパクトすら感じる。私にとって鳥谷敬とは“気になる”選手だ。

 それは高校時代の“彼”に遡(さかのぼ)る。1試合だけだったが、その内容が濃かった上、私が抱いていた高校野球選手に対する既成概念を打ち破る新しい風も吹き込んでくれた。

 …1999年夏、大会7日目、初出場の埼玉・聖望学園が登場した。甲子園には初お目見えのユニホームに身を包んでいる。アイボリーの地に、臙脂(えんじ)のラインが首回りからボタンの両サイドに沿ってベルトのバックルまでと袖口、ズボンの両サイドに入っている。胸には紺色のかわいらしく丸みを帯びた漢字で『聖望学園』と縫い取られている。帽子もツートンカラー、紺につばは赤、全体に社会人野球のテイストに感じられた。

 16歳から18歳の青年たちには定番の白・紺・黒などシンプルカラーがよく似合い、聖望学園のようなデザインを身にまとうと異質に映ることもある。しかし、“彼”は違った。180センチ81キロと大学・社会人クラスの体形に彫りの深い端正なマスクで見事に着こなしていた。

 「うわっ、カッコイイ!」が最初の印象だった。そうか背番号「6」だから“彼”が評判の鳥谷だとすぐに気づいた。埼玉大会で好成績を残し注目されていた。中軸の一角3番で左打ち、内野の中心ショートを守りつつ、140キロの速球でリリーフのマウンドにも登る、この上ない高機能・高性能型のプレーヤーだ。私の期待感が高まる中で試合が始まった。相手は21年ぶりの大分・日田林工。

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