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【実況・小野塚康之 時代を超える名調子】初実況は高校生に支えられた(下) スタンドでの練習が今でも宝物 照れくさい選手からの激励 (1/3ページ)

 米子市営湊山球場は城跡の石垣がスタンドの一部になっている風情ある球場だ。周囲のポプラ並木が目に鮮やかだった。ちょうど開会式が終了して試合の準備が進んでいるころに到着した。私が高校時代プレーした神宮や大田スタジアムなど東京の球場とは趣が異なり緑と土の香りにあふれていてとてもリラックスできる雰囲気だった。スタンドに陣取る高校野球好きの皆さんも階段を上る私と気軽に挨拶を交わしてくれる。温かい。「よかった」と思った。このスタンドの中で実況のトレーニングをしなければならないからだった。

 放送席で正式な実況放送をするよりも観客席で録音機(カセットテープレコーダー)に向ってしゃべる方が100倍度胸がいるのだ。バックネット裏のいわゆる“濃い高校野球ファン”は今年もNHKに新人が来てまた練習することを知っている。ニヤニヤしながらの視線を感じたり、『ご苦労さん』と声をかけてくださる方もいた。

 試合が始まった。カードも覚えている。「倉吉北対八頭」だった。私立の倉吉北は強豪、少年野球で全国大会で活躍していた関西からの選手も多く実力は群を抜いていた。一方、八頭は郡部の公立校、ネット裏のファンの評価でも圧倒的に倉吉北が優勢だった。

 八頭が全力プレーで一丸となって立ち向かう。コントロールが持ち味のエースがコースを突き、クレバーに緩急を有効に駆使して強打者たちを手玉に取る。打線は速球派の相手エースに対して狙い球を絞り徹底してセンターに打ち返す。強豪を追い詰めた。80%八頭が優勝候補筆頭を撃破するのではとスタンドも私も興奮した。

 もう稽古でしゃべっているなどということは忘れていた。近くにはテント張りの放送席があって先輩が本番の実況をしていたはずである。そんな意識や気遣いなしにぶっ飛ばして実況していた。あとで『うるさかったねぇ! お前の声集音マイクが拾ってたぞ! 放送に入っちゃうよ! 気合入りすぎ! 周りの人も振り返ってたし!』と先輩の音声担当の技術職員から教えられ冷や汗が出た。

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