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【実況・小野塚康之 時代を超える名調子】ダルビッシュを考える(中) 不安な立ち上がりからのノーヒッター、味方のエラーに四球…不都合な展開に濃縮された能力の高さ (3/3ページ)

 先制の場面で木村のカウントは2ボール2ストライク。5球目、ダルビッシュが投じたのはアウトコース低めのストレート。1メートル85センチの木村のバットは動かない。球審のコールは「ストライク!」。木村の頭の中には手を出すべきボールとして頭にはあったはずの外角速球だったが、球威、キレ、コントロールすべてが木村の想定を超えていた。こうして、ダルビッシュのノーノーピッチングがスタートしていったのである。

 初回のピンチを切り抜けた東北が2回表に2点を先制する。その裏をダルビッシュがいい形で抑えれば主導権を握るが、1アウトから1番良くない四球で出塁を許す。ちょっとした隙に見えた。接戦に持ち込みたい熊本工業は取られた直後にまず1点を返せばというプランで7番投手の岩見に送りバント、しかし、ダルビッシュは強いボールでピッチャー正面のゴロにさせて2塁で刺す。相手の得意技を2度封じてみせたが、1回2回結構パワーを費やした。

 ノーヒットノーランは何試合か目撃してきたが、多くの場合初回から投手が自然に自分の世界に入っていくリズムがあると思う。表記した3者の2回までを見ても松坂が1回に四球を出したのみである。それ以外は全くランナーを許さずテンポの良い投球に持ち込んでいる。他の例には序盤から大記録の臭いがしたと思われるがダルビッシュの場合は立ち上がりから自分のペースに持ち込むには逆の作用ばかり働いていた。味方のエラー、自ら与えてしまった四球のランナー、相手得意のバントや盗塁の戦術の仕掛け。どれをとってもリズムに乗りにくい不都合なことばかりだ。

 2回を終わったところで、いくらなんでも「この試合ノーヒットノーランになるでぇ」とは予測できなかったと思うし、もしかしたら1回2回で既にヒットが出ていると錯覚する人もいるのではないかというスタートだった。

 でもこの中にダルビッシュの能力の高さが濃縮されていて、乗り切ったからこそ大記録につながった。さらに掘り下げて楽しみたい。

 ■小野塚康之(おのづか・やすゆき) 1957(昭和32)年5月23日、東京都生まれ。80(同55)年、学習院大からNHKに入局。以降40年間、主に高校野球、プロ野球の実況を担当し、名物アナウンサーとして活躍した。今年3月にNHKとの契約を終了しフリーに。現在もDAZN、日テレジータス、JSPORTSなどで実況家として野球中継に携わっている

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