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【実況・小野塚康之 時代を超える名調子】センバツ93回大会を振り返る(後編) 健闘した21世紀枠の八戸西、新しい応援スタイルにも感動

 【気になるタイブレーク】

 センバツ史上初のタイブレークは5日目1回戦の最終盤、常総学院対敦賀気比のゲームだった。

 5対5の同点で延長戦、12回でも決着せず13回以降無死1塁2塁で攻撃するタイブレークに持ち込まれた。表の常総学院の仕掛けが注目だった。1点を確実に取りに行くのか? 複数得点を狙うのか? 選択したのは送りバントはせずに強攻、一気に4点を上げ試合を決めた。島田直也新監督の素晴らしい勝負勘が冴(さ)えた。

 この試合を振り返ると、常総学院は前半のリードを守れず後半追い上げられた。終盤突き放しても同点に持ち込まれた。常総学院としては流れが悪い。しかもタイブレークは相手の出方をうかがえる点で後攻が優位とも言われる。それだけに腰を据えて複数得点を挙げる強攻を選択し成功したのだと思っていたが、試合後の島田監督は『タイブレークの練習なんてしてなかったのに、期待以上の結果を出してくれました』と。

 強豪常総学院といえば常に甲子園の戦いを想定して臨んでいるものとばかり思っていた。当然タイブレークは必須だと。しかし島田監督の発言を思い返せば去年の秋もセンバツを迎えても『センター返しで低く強い打球を心掛けろ!』の繰り返しだった。関東大会・388と打ちまくった強力打線でも監督としては納得できるレベルに達していなかったのだろう。

 常総学院にして基本中の基本を浸透させることを最優先させ時間をかけた。やはり今年のチームは仕上げるまでの時間が足りていないのかなと感じる部分だった。コロナ禍の実戦不足が打撃に影響を及ぼした一面を見た気がする。

 【持ち味披露21世紀枠】

 八戸西には投手力のレベルの高さを感じた。東播磨は準優勝の明豊を延長戦で土俵際まで追いつめたアグレッシブな走塁が際立った。具志川商は勝利を収め次戦も大接戦を演じ試合巧者ぶりを示した。三島南は粘り強く守る接戦の好ゲームを展開した。各チームが投攻守それぞれの特徴を発揮し、全国で通用する手応えを感じて甲子園を後にした。21世紀枠の出場校が印象に残るのは“良い大会”の証しだ。

 【たくましき新戦力の活躍】

 秋の大会の時点でベンチに入っていなかったり公式戦に1度も出場していない選手の大活躍が鮮烈だった。これはセンバツの醍醐味(だいごみ)だ。春に花咲く選手たち。

 ベスト8の東海大菅生の新戦力はすごかった。まず1回戦では、秋はベンチ外の鈴木悠平が大会5日目の聖カタリナ戦で今大会の第1号を放った。本塁打が出ない、打撃が低調といわれていた中での特大の1発だった。甲子園で17番の背番号を付け監督の指示通りスライダーを狙い打った鮮やかなアーチだった。

 次は準々決勝進出を決めた2回戦、こちらは大会直前の最終登録変更で18番をもらった2年生の多井耶雲、2死満塁で代打・逆転サヨナラ2塁打、これが公式戦初出場初打席だったというから舌を巻く。

 ベスト8の智弁学園でも2回戦で中陳六斗が起用に応えた。初めての公式戦で8番セカンドのスタメンに抜擢(ばってき)されて決勝点を呼ぶ2塁打を含み2安打1打点、チームに勢いをもたらした。与えられた初めてのチャンスを生かすこうした姿にフレッシュさとともに時代を生き抜く頼もしさを覚えた。

 【胸熱くなるアルプススタンド】

 真剣勝負が帰ってきた甲子園、どんな雰囲気の大会になるのか楽しみに見てきたが、数々の制約の中で応援合戦は見応え聞き応えがあった。コロナ感染症対策として人数制限、ブラスバンドは現場演奏を見送り、事前の録音素材をスピーカーから流し、楽器は太鼓1つだけという初の体制だった。

 最初はその意識をもってアルプススタンドを捉えていたが、そのうちにふと満員で膨れ上がりナマで演奏しているように受け取れた。テープ素材が良くできているからだ。演奏できないけれどライブさながらの収録をしたことが想像された。

 例えば広島新庄、ヒッティングマーチの“あまちゃん”のバックにしゃもじのカチカチ(勝ち勝ち)音がしっかり取り込まれている。郷土色がうれしくなる。打順に沿って次々に打者ごとのテーマが送出されると聞いていたが、出塁時にはファンファーレが高鳴りスコアリングポジションに進めばワッショイで相手に重圧を掛ける生演奏そのものだった。

 最も衝撃的だったのは智弁学園が攻撃の気合を込めるチャンステーマ甲子園名物曲の「ジョッグロック」が絶妙のタイミングで選手の後押しを始めたときだった。『誰が一体どのタイミングで指示を出しているのだろう?! 気が利いている! 素晴らしい!』無観客の時に比べたらどれだけ選手たちはプレーしやすく力になっていることだろうかと想像した。

 【1000人足らずでも】

 高校野球の長い歴史の中でアルプススタンドは欠かせない存在で、熱と愛情と人があふれているスポットだ。そのイメージが多くの皆さんの心に刻まれている。私もその一人で今回のきめ細かな演出によるテープの再生音のおかげで過去の盛り上がるアルプスの記憶を自然に呼び起こし、現在にダブらせ試合を見つめられたのだ。ここまで積み上げてきたものの大きさを改めて感じた。無性に足を運びたくなった。そこでまた胸が熱くなった。

 1000人足らずだった。小さな集団だ。1人1人が間を空けて整然とベンチに座っている。マスクを着用し大声は出さない。攻撃が終われば即座に沈黙する。マナーの守り方が徹底している。それでいて思いが籠っている。暮らし方が変わった中でのアルプスの応援のスタイルを構築している。

 ■小野塚康之(おのづか・やすゆき) 実況家。1957年5月23日、東京都生まれ。80年学習院大を卒業し、NHKに入局。以降41年間、主に高校野球、プロ野球の実況を担当する名物アナウンサー。2019年からフリー。現在はDAZN、日テレジータス、JSPORTSなどで野球中継に携わる。

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