ヤクルト・バレンティン選手や楽天・田中将大投手の大記録に比べると地味ですが、9月26日の対中日戦で2塁手として499補殺(1日現在で514)というセ・リーグ新記録を達成した広島・菊池涼介内野手(23)を取り上げます。
自分で直接アウトにするのではなく他の野手に送球することでアウトにするのが補殺。つまり菊池選手は今季、実に多くのセカンドゴロをさばいたということ。スポーツ紙ではベタ記事扱いでしたが、広島の古沢憲司投手コーチは「彼のおかげでどれだけ投手陣が助かっているか。抜けた! と思った当たりにことごとく追いつくんだから」とよく話されています。
同28日、神宮のヤクルト対広島戦では私も3度、ファインプレーを実況。「これが本当のプロのプレーですよ」。あまり人を褒めることのない? 解説の江本孟紀さんが絶賛されたのですから、凄さをおわかりいただけるでしょう(笑)。
菊池選手の失策数自体は「17」と多いのですが、野村謙二郎監督は「彼は人が追いつけない打球にまで追いつき、それをはじくとエラーにされてしまう。記録員の方はもう少し考えてもらえませんかね」とかばいます。
菊池選手本人は「古沢コーチに褒めてもらえるのは嬉しい。僕はかなり深く守るのでポジショニングも相当広範囲に動いているとは思いますよ」と笑顔。また171センチと小柄ながら「硬い筋肉にしたくないから筋トレはあまりやりません」とも。これがしなやかな動きの秘訣でしょうか。
ちなみに菊池選手が子供の頃に憧れていたのは元巨人の仁志敏久さん(現野球評論家)。「よくドームにも見にきていた」そうです。その仁志さんはいいます。「彼は歴史的な名セカンドになるかもしれませんよ。難しい打球を素早く処理しようとすればリスクが伴うから普通は無難にやろうとする。でも彼はあえてチャレンジするし、それができてしまう。今後はプレースピードをさらにコンマ1秒でも速くすること、そして難しい打球を簡単に処理できるようになることですね」
ヤクルトの宮本慎也選手も「彼の守備範囲の広さはすごい。日本を代表するセカンドになれますよ」と絶賛。守備の達人として知られるおふたりが太鼓判なのです。16年ぶりAクラス入りの広島カープは投手陣の活躍が注目されていますが、それを下支えした菊池選手の守りも評価してあげたいものです。
■松本秀夫(まつもと・ひでお) 1961年7月22日生まれ、東京都出身。早大卒、85年ニッポン放送入社。スポーツ部アナウンサーとして「ショウアップナイター」の実況などを担当。2005年ロッテ優勝決定の試合での号泣実況のほか、数々の名言がある。