■「虎のスコアラーが教える『プロ』の野球観戦術」三宅博著 (祥伝社)
著者は阪神で25年間、北京五輪の星野ジャパンでもスコアラーとして尽力したベテランだ。バックネット裏から、選手の弱点やクセといった“情報”を収集するのが仕事。しかし、具体的にはどういう視点で分析するのかあまり知られてはいない。
たとえば、バントや盗塁のブロックサイン。三塁コーチから出されるケースが多いが、流れるようにサインを出すコーチから盗むのは難しい。そこで著者の場合、まず“影武者”をみつける。中日なら監督の近くが定位置の小田幸平捕手。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の侍ジャパンでは、梨田昌孝ヘッドコーチがその任にあったという。
「何かありそう」と思ったときに注意深くベンチをみると、影武者の動きからサインを盗むことも可能だという。野球が高度な情報戦であることを、改めて認識させられる。
一方、スコアラーという職業は“インサイダー”としての情報収集能力も高い。阪神・野村克也監督と当時の久万俊二郎球団オーナーの激しいバトル、藤川球児の後継守護神に久保康友投手が選ばれた理由など、表舞台にはなかなか出ない話が辛口で語られる。
そのほかWBCの重盗失敗に隠された秘密、巨人攻略のポイント、日本球界の最強ストッパーは誰か−がスコアシートを用いて解説される。
野球観戦も“プロの視点”を持ち込むと、新たな発見ができそう。そのためのヒントがちりばめられている。 (田中一毅)
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