大相撲界には力自慢が多いが、大砂嵐(22)も人後に落ちない。何しろ片手で鉄棒にぶら下がり、そのまま軽々と懸垂ができるのだから。そして必殺ワザは、怪力をフルに生かした右からのカチ上げだ。
先場所は遠藤が一発でひっくり返り、今場所も3日目に稀勢の里が鼻にモロに受けて大量の鼻血を流した。前日16日の4日目も千代鳳が左目の辺りにクリーンヒットされ脳震とうを起こした。
ただ、この男のカチ上げ、大相撲流の下から上に押し上げるように繰り出すのでなく、顔面目がけて横殴りに見舞うひじ打ちまがいの変則タイプ。このため力士たちの批判が相次ぎ、前日も稀勢の里が腫れた鼻をさすりながらこう言った。
「元気があっていいけど(相撲は)殴るスポーツじゃない。(オレたちは)力士だから」
KOされた千代鳳も「気がついたら地面にひっくり返っていた。意識が飛んだ。下からじゃなく、横からピンポイントで顔面に当ててきた」と唇を尖らせ、あれは完全にルール違反、問題にすべきだという顔をした。
まさに逆風だ。しかし、この日はカチ上げを巡る批判がプラスに働いた。相手は鶴竜。横綱初挑戦だった。この鶴竜がカチ上げを嫌い、立ち合いで左に代わって上手を取り、一気に寄ってきたのだ。その出足を利用するように、土俵際ですくい投げを打つと、横綱が土俵を飛び出した。
カチ上げの幻影が生んだ初金星。前相撲から15場所目での金星は小錦(元大関)に次いで史上2位のスピード獲得。しかもイスラム教徒で現在ラマダン(断食月)中。水も飲めない状況でだ。
「今の気持ち? あまり変わらない。いつもと一緒。喜ぶのはまだ早い。場所は終わっていないから」と苦しそうだったが、この快挙でカチ上げがさらに脚光を浴びるのは確実。封印を強いられることはあるまいが、新たな試練が始まろうとしている。 (大見信昭)