コーヒー1杯350円、レコードのクラシック音楽が流れ、給仕するのは若い学生、という店が今年6月、群馬県高崎市にオープンした。今から約30年前に閉店した名曲喫茶「あすなろ」の復活だ。
この店は、1957(昭和32)年に同市に開店、1982(昭和57)年までの四半世紀、詩人や音楽愛好家、その雰囲気に憧れた若者が集まる高崎の文化の発信地だった。
あすなろの店主は故・崔華國(日本名・志賀郁夫)氏、詩壇の芥川賞といわれるH氏賞を受賞した詩人だった。彼は1955(昭和30)年に封切られた群馬交響楽団を描いた映画「ここに泉あり」に感動、その舞台である高崎市に文化の拠点を築きたいと考えたのだ。
当時、一流とされた東京・有楽町の「エチュード」や新宿の「上高地」などの名曲喫茶を手本に店舗作りからレコードコレクションの質・量はもちろん、一流のコーヒー職人を雇うこだわりを見せた。店の伝票の裏に「郷土を美しい詩と音楽で埋めましょう」と印刷、毎日2回のレコードコンサートを行い、店内に設けたステージでは群響の演奏家による「生の音楽の夕べ」も開催した。
さらには群馬の作家を育てようと、中央で活躍する詩人を招き「詩の朗読の夕べ」を140回も開いた。1966(昭和41)年には、首都圏在住の詩人40人あまりを招き、群響団員や「あすなろ会」の詩人たちと交流する「詩人とつどう会」を群馬県の神津牧場で開催している。 (広告・イベント研究家 熊野卓司)
■『仕事のヒント』
今回のあすなろの復活劇は、店舗の改修への高崎市の経済的な支援と、店舗運営の中心となる高崎経済大学の学生のコラボで実現した。同大学は街なかの活性化にいろいろな形で積極的に参画することが多く、座学では体験できない生きた学びの場として今回のような活動を捉えている。
同店の復活に際して、学生たちが掲げたコンセプトは「文化発信の場」「地域振興の場」「学生成長の場」の3点。喫茶店経営の難しい昨今、市では当面は「赤字覚悟」というが、街なかを活性化させるイベント経費、学生の学習支援と考えれば安いものだ。年間を通した学生中心の店舗運営は全国でも初の試み。学生とのコラボの新しいあり方は注目に値する。



