今回、日朝交渉への期待感が高まったのは、岸田首相が5月27日、国民大集会に参加して、「私直轄のハイレベル協議を行う」と、近年になく踏み込んだ発言をしたことだ。この直後、北朝鮮外務次官が「日本が新たな決断を下し、関係改善の活路を模索しようとするなら会えない理由はない」などとする談話を公表した。
拉致被害者や家族は高齢化し、早急な解決が求められる。被害者家族は「被害者全員の帰国」を切望している。日本国内の報道も活気づき、岸田首相の熱意は加速しているとされる。
ただ、内閣支持率が低下するなか、前のめりの日朝交渉は、「拉致事件の幕引き」を図る北朝鮮の術中にはまるリスクを高める。
情報当局関係者は「北朝鮮は、日本の政権基盤の強靱(きょうじん)さや、世論を詳細に分析している。経済支援などの『成果』が得られると判断すれば、交渉に乗り出す可能性はある。ただ、先代の金正日(キム・ジョンイル)総書記が下した『拉致問題は解決済み』などの決断や説明は絶対だ。2002年の日朝首脳会談で示した被害者の安否を覆し、帰国を実現するには、相当なハードルがある」と語る。
極めて難易度高い
岸田首相は、どのような戦略を描き、交渉実現につなげるのか。注目度はより、高まりそうだ。
ある日朝関係筋は「北朝鮮には『日本が02年に約束した経済支援をせず、裏切った』という認識もある。閉鎖的な独裁国家に捕らわれた被害者の安否情報を得るのは、容易ではない。日本の動向をつぶさに観察する北朝鮮が示す『反応』を、注視すべきだ。新たな会談で北朝鮮が示す情報や条件に対し、どう応じるのか。極めて難易度の高い外交交渉になる」と強調している。
